カウンセリングについての知識をNPO日本リアリティセラピー協会理事長の柿谷正期先生のお話『ミレニアム期の人間関係』をご紹介します。
@『人間関係を悪くする七つの過ち』
 人の幸・不幸の多くは人間関係の質にかかっている。ところが、誰もが幸せな人間関係を求めているにもかかわらず、人類の歴史を見る限り、その成長の跡を見ることができない。科学の進歩はここ五十年を見ても顕著であり、その右上がりの躍進振りは否定できない。
 人間関係はどうであろうか。夫婦、お綾子、教師と生徒、上司と部下の人間関係は今どうなっているだろうか。五十年前の人間関係と比較して、科学技術と同様の進歩が見られるだろうか。答えは残念ながら「ノー」である。グラフに描けば、科学の進歩が急激な右上がりであるのに対して、人間関係の方は、ほとんど水平に近い線で表されるであろう。科学技術の領域と人間関係の領域の間にある大きな違いは何なのだろうか。


 外的コントロール心理学VS.
      内的コントロール心理学

 
 米国の精神科医ウイリアム・グラッサー博士(注)は、その原因について心理学理論に問題ありとしている。科学技術の領域では、理論が間違っていたらすぐに新しい理論がとって代わる。そこに進歩が見られる。古くは天動説が否定され、地動説が受け入れられた。ところが人間関係の領域では、そうではない。従来からの外的コントロール心理が依然として幅をきかせている。
 外的コントロールの例をあげてみよう。例えば、人に対して怒ることで何かをさせることができたら、怒りが功を奏したと思うだろう。自分が、刺激を与えることで相手の反応が得られたと思う。このように、人を動かすためには、大きな刺激を与える必要があると考えるのが外的コントロール心理学である。 これに対して、グラッサーは、内的コントロール心理学を主張する。この例であれば、怒られて何かをした人は、怒られてからでなく、自分でその行動を選択したのだと考えるのである。外的コントロール心理学を正しいと思っている人は、いつまでたっても、強制こそ人を動かす手段と考える。しかし、大声が人を動かしたように見えても、そうでない。小さな子なら、大声で怒ることで何かをさせられるかもしれないが、中学生なら、「うるせえ」という言葉が返ってくるだろう。グラッサーは、外的コントロール心理学に拠っている限り、人間の質はよくならないし、これに代えて内的コントロール心理学が採用されれば、人間関係の改善が促進されると主張する。
(注) ウィリアム・グラッサー
アメリカの精神科医。1925年生まれ。
選択理論心理学とそれをベースとするリアリティセラピーカウンセリングを提唱。リアリティセラピーは,
世界の九大カウンセリングの一つと言われ、米国、カナダを中心に影響力をもつ。
A『人間関係を悪くする七つの過ち』
 ウィリアム・グラッサーによると、外的コントロール心理学をベースにした人間関係で私たちがよく犯すのが次の七つの過ちである。

@批判する
 グラッサーは対人関係においてプラ スの効果を持つ建設的な批判というような ものは存在しないと言い、批判を一切しな いというような関わり方の重要性を指摘し ている。

A責める
 私たちは普通、悪いのは相手であって自分ではないと考えがちである。他人が茶碗を落として割ったら不注意だと責め、自分が落として割ったら、手が滑ったといって自分を責めない。人間は自分に都合のよい存在である。

B文句を言う

Cガミガミ言う

D脅す
 「ぐずぐしていると置いていくよ」「こんなレベルでは単位はあげられない」「このままなら首だ」など。

E罰する
 罰を与えることでは、子どもも社会も よくならない。罰の抑止力は高くない。 罰で人間関係が改善することはない。

Fほうびで釣る
 「本を読んだらピザをあげる」の程度から「売上を達成したら、グアム旅行ご招待」まで、様々なほうびで釣る。
   
 これらの@〜Fの行為は、自分と相手との距離を遠ざけることはあっても近づけるものではない。良い人間関係を維持するには、家庭や学校、職場でこの七つの過ちを犯さないことが大切である。
 グラッサーは、さらに、暴力、犯罪、幼児虐待、アルコール・薬物依存、早すぎるセックス等々の現代の社会問題の多くが、不満足な人間関係に起因していると主張してする。そして、人々が次に述べる「選択理論」に基づくならば、私たちは人間関係を良好にしながら、強制によらず人に行動を促す方法を身に付けることができ、人間関係の悪化から生じる多くの問題を解決していけると主張する。
 日本では、1983年頃に離婚ブームといわれその当時の離婚件数は、約18万件であった。現代では24万件くらいだ。もし夫婦の間で相手を批判せずにすむ対応の仕方が身に付けられれば、夫婦関係は改善でき、日本の離婚率は大きく減少する可能性がある。

 「選択理論」
 グラッサーの「選択理論」は、人間の行動を司る脳の働きを説明する理論であり、内的コントロール心理学に属する。
 そのポイントは、

 @人の行動はすべて自分の内側からの基本的欲求によって動機付けられている
(他者の指示命令や外部からの刺激で行動するのではない)

 A人はすべての行動を自分で選択している

というものである。
 
 選択理論では、人には5つの基本的欲求があると主張している。

 @「生存の欲求」
 A「愛・所属の欲求」
 B「力の欲求」
 C「自由の欲求」
 D「楽しみの欲求」

がそれである。
 @は、身体的欲求であり、「食べる、水を飲む、子供を生む」などである。A〜Dの4つは心理的欲求であり、Aは、「愛し愛されたい、受け入れられたい、受け入れたい」、Bは、「勝ちたい、達成したい、認められたい」Cは、「自由に自分が思うことをしたい」、Dは、「遊びたい、笑いたい、楽しみたい」という欲求である。
 私たちは、家庭、職場、学校などで、これらの基本的欲求(特にA〜Dの4つの心理的欲求)がバランスよく満たされているときに、人間関係が良好であると感じ、幸福感を覚える。
 結局、「愛・所属」、「力」、「自由」、「楽しみ」という基本的欲求をお互いに満たし合うような関係が良い人間関係ということになる。言い方を変えれば、自分が相手のどの基本的欲求を満たしてあげたらよいかを考えて取り組む努力をすることで、私たちは日常的な人間関係を良好にできるということである。

           (次回へつづく)




B『職場での良好な人間関係のために』
グラッサーは選択理論に基づくマネジメントをリードマネジメントと名付けている。そして、リードマネジメントを導入することで、職場の人間関係を改善でき、仕事の質も高められると主張する。
 人は、職場では、仕事を通して基本的欲求を満たそうとする。リードマネージャーは、部下の「所属」、「力」、「自由」、「楽しみ」の欲求を満たすような関わり方をしていく。人間関係を悪くする七つの誤った行為によらず、相手との関係をよくするやり方で接するということである。
 部下の「業務命令だから仕方がない」という態度と、「この人に頼まれたから一生懸命やる」という態度の違いは、上司が部下の欲求(所属、力、自由、楽しみ)を満たしているかどうか、人間関係が良好かどうかに掛かっているのだ。
 強制によって仕事をさせても品質の向上には限界がある。そうでなく、高品質の追求が部下の基本的欲求の充足に重なることに気付かせることができれば、部下は、内的に動機付けられて、チームワークよく(所属の欲求充足)、能力や才能を発揮して(力の欲求充足)、自由に発想し、創造し、(自由の欲求充足)、楽しんで(楽しみの欲求充足)品質の向上を目指し、それを実現するのだという考え方である。
 職場での人間関係をよくするには相手の基本的欲求(愛、所属、力、自由、楽しみ)のうち一つでも満たすような取り組みを、自分の方からしていくことが効果的である。自分と合わない上司や部下には距離を置き、あまり声をかけないものだが、むしろ近づいていく努力が必要だ。「挨拶の仕方を変えてみる」など、できそうなことを実践していくことが関係の改善に繋がっていく。
強制するのでなく「自己評価」を促す

強制によらずに、人に行動を促す重要な方法が「相手に自己評価を促す」ことである。
「自己評価」とは、「他人による評価ではなく、自分でする評価」の意味である。自分の行動が自分の目標の達成や願望の実現にとってプラスかマイナスか、自分のしていることを続けていて得たものが得られるのかどうかを、自分で評価し判断するように促すのである。人は、自己評価に基づいて納得して行動する限り、腹を立てたり、気分を害することはない。つまり、人間関係が損なわれることはない。

終わりに

グラッサーは、「デミング賞」で有名な品質管理の父といわれるエドワーズ・デミングから、ビジネスにおける上質追求の理念を引継ぎ、人間関係の上質を目指す選択理論に取り入れた。選択理論は、誰にも理解しやすく、日常での人づきあいに応用できる理論である。人間関係の再構築が大きな課題であるミレニアム期の日本社会において、大いに活躍が期待できよう。
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